10年振りの「地球は生きている」

 今年7月末、国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わりました。地球沸騰化earth global boilingの時代が到来したのです」と言い、世界(地球)の7月平均気温が16.95度と最高になった。日本でも1898年測定開始以来125年後の今年7月の平均気温が25.96℃(1978年の25.58℃を抜いて)と最高を記録した。今年は5月から天候が例年と違っていた。爽やかな五月晴れがなく、だからか5月病もあまり見かけなかった。6月も梅雨という梅雨がなく雨天が少なかったせいか、例年この時期多くなる梅雨鬱の患者さんをあまり見かけないまま、代わりに早くも猛暑がこの頃から始まった。そして7月連日猛暑日が続き、世界中で、ギリシャ・ロードス島やスペイン・イタリアで熱波による山火事、カナダ東部での広範な山火事の煙がNYまで流れて空がオレンジ色になる現象が起こった。地球温暖化のため北極やグリーンランドの氷が大量に解けていること、毎年発生するアメリカ本土(特に西部カリフォルニアが多い)の山火事だけでなく、ハワイのマウイ島・ハワイ島でも山火事が発生し、40℃を超す猛暑が続いたアリゾナ州フェニックスでは転んでアスファルトに肘をついただけで火傷する等、NYで最高気温が30℃越え、北京では40度超えなど、8月まで世界中がboilingではなくburningの状態といえる異常な自然現象の頻発が続いている。日本でも全国で連日35~40℃の体温越えの気温が続き、熱中症は連日数多く、亡くなる人も例年になく多くなっている。
 21年前から書き始めたこのエッセイも、振り返ってみると、季節が変わる度に異常気象について繰り返し書いてきた感がある。猛暑、大雪、洪水、火山の噴火、地震津波等々、11年前2012年11月の第17章「ダイビング~地球は生きている」ですでに私は以下のように書いている。

~海底深く熱水の噴き出しているところに生命の源があると…これだけ多くの生命体を産んでいる地球は“生きている!”と思わざるを得ません。逆に「人間は地球の天敵である」ことは確かです。異常気象と言いますが、それは人間から見た見方であって、地球から見たら「人間に対して怒っている」事態なのかもしれない、人間の生活や欲のために、…地球深く採掘するという暴挙を、再考するべきではないでしょうか。地球環境をさらに壊し地球を怒らせないためにも。~と

当時これを読んだ人の多くが、「えっ? 何荒唐無稽なことを言ってんの?」と少し呆れ顔で嘲笑を浮かべた。地球を無機物として扱い、地球に生命や心が宿っているとは誰も思っていないようだった。当然だろう。私も海に潜るようになって徐々にそう感じるようになったのであって、その前までは露もそう思わずにいたのだから。しかしその後の11年で世界は大いに変わった。今私がこの言葉を吐いても笑う人はあまりいない。むしろ「そうだよね~」と共感してくれる人が多くなっている。スゥーデンの女性環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(20歳)が2018年から世界中で気候変動への抗議やスピーチをしている活動に加えて、年々増える異常気象のニュースやそのメッセージ性の強い映画など、SDGsや環境問題に取り組む姿勢が増えてきたことは嬉しいことだ。しかし一方で、相変わらず実験と称してミサイルを海に落とす国や、戦争で大地を焼き尽くす国があることは許し難い。海にミサイルを落とせば人間に害はないからいいというのか!そうではなく、海の生態系が破壊され、ひいては人間の食する魚介系に影響が出る。地球の気温や偏西風にも影響を及ぼすだろう。そのせいなのか今春常には北のシベリアの海域で発生するプランクトンが北海道近海で異常発生して、イクラやウニ、ホタテが死滅し獲れ高が激減した。ウクライナの穀物畑がミサイルや爆弾で焼き尽くされたり、ハワイやアメリカ大陸の山火事で森林や畑が広範に焼失したりして、その地の気温は何度か上昇しているという。私は暑いことで有名になってしまったが(2007年8月40.9℃を記録)本来は陶器の街多治見市で生まれ育った。昔はそんなに夏暑い所ではなく、京都・大阪の方ははるかに暑かった。1980年夏沖縄の万座ビーチで34℃を体験して、「さすが沖縄!」と暑さに驚いた覚えがあるから、当時の多治見の最高気温は30℃くらいだったはずだ。約40年間で10℃夏の最高気温が上がっていることになる。が今や北海道や東北でも体温超えの猛暑となり、日本全国boiling状態にあり、むしろ沖縄へ避暑に行くと言う人がいるくらいだ。多治見市は、山から陶土を削って樹を伐採し尽くし、その丸裸になった山の上に名古屋のベッドタウンとして住宅地を量産したため、そこから吹き下ろすエアコンの熱風がV字谷の盆地に溜まるようになって街の気温が上昇したと考えられている。やはり自然破壊だ。
2018.8のマウイ島の夕日 8月8日ハワイのマウイ島の数か所での山火事が発生しラハイナの街が壊滅したニュースは私にも大変ショックだった。5年前マウイ島へ行き海に潜った。私は南西部のワイレア地区のホテルに泊まったが、マウイ島の中でも暑いことで知られる北西部にあるハワイ王国最初の首都ラハイナの街へ一本道をレンタカーで行き、海岸通りをアイスクリーム片手に歩きながら、海上テラスでシーフードランチを摂り、今もクリニックに飾ってある絵画を買ったり、旧裁判所内の監獄に入ってみたり、バニヤン・ツリーの巨木の下で涼んだり、と確かにあの枯草に覆われた山からの熱風で暑かったが楽しいひと時だった。火の手が上がったばかりのニュース画像にはあのギャラリーはまだ健在していたが、全てが焼き尽くされ跡形もなく灰になった映像を見ると何とも言えない悲しい気持ちになった。私が到着した日もハリケーンが来ていて、そうとは知らずにいきなりハレアカラ火山にサンセットを見ようと車を走らせ、余りの風雨に恐れおののいてあと3㎞というところでUターンして大急ぎで一本道を下山した。ラハイナのあの山肌を走る暑くて長い一本道を皆一斉に避難しようとして大渋滞し大勢逃げ遅れたと聞くと、胸が締め付けられる想いがする。人災説や宇宙からの攻撃説がささやかれているが、まずは地球環境の変化による自然災害が主原因だろう。その後もスペインのカナリア諸島やカナダのイエローナイフで同様の大規模な山火事が起こっており、日本も台風が連続して到来し各地で水害が起きている。これから9月台風シーズンを控えている日本にも、更なる自然災害~地球の逆襲ともいえる~が続く危険性を考えておかなければならないだろう。
 一連の自然災害の地が、赤道より上の北緯何度かの範囲に多いことは、偏西風のうねりによるものと考えられている。それは、元来地球は水で覆われた惑星であることを考えると、こういうことが続いていってまた暗黒時代がやってくるのだろうか、と思わずにいられない。その痕跡が、西表島と台湾の間にある沖の神島の海底で見た人為的な神殿跡なのか…浦島太郎の昔話はそれの伝承なのだろうか、と。では本当に地球は生きているのか、これらの自然災害は地球からの逆襲といえるのか。ジェームズ・キャメロン監督の映画「アバター」の第1作に出てきた巨大な“精霊の宿る魂の樹”と第2作ウェイ・オブ・ウォーターの“海底から生える精霊の樹”は、そこに住む生命体がそれにチャージして生態系ネットワークで繋がり、根源的な力を受け精神的な絆を築く生命の根源の象徴として描かれている。人間は資源を求めて地球上だけで飽き足らず、他の惑星まで征服しにやって来る悪者に描かれている物質文明と生命との戦いというストーリーに、私と同じく海に潜ることをライフワークとしているJ.キャメロン監督の強いメッセージに私は大いに共感した。海に潜る人は地球の変化についてよく知っている。この監督は南米アマゾンの先住民の自然環境を守ろうと水力発電ダムの建設反対運動に参加している。海やジャングルの環境に関心の深い監督の考えが「アバター」に繋がっているのだ。
 また以前にも書いたが、魚とアイコンタクトを取るべく潜った折海中でじーっと魚と睨めっこをして、心が通じたら私のカメラに正面の顔を見せて撮られてくれる!と信じてその行動を続けたが、応じてくれたのはまだニモ(カクレクマノミ)しかいない。水中は空中より心が伝わる速度が速いというし、地上の空中より澄んでいる海もある(沖の神島の根)。
 人間や動物・魚だけでなく植物も当然生きている。その変化の速度が人間がじっと待てないほど緩慢であるために、簡単に手折る人や除草剤を巻く人がいるが、長年薔薇や庭や室内の花や観葉植物の世話をしてきた私は、声をかけると反応すること、意志ある成長の仕方・伸び方をすることに気付き始めている。たとえば薔薇は開業以来だから22年、庭木や室内観葉は24年目になるが、弱りかけている時、「頑張れ!頑張れ!」と声を掛けてやって肥料や水を丁寧に与えている内に回復したことが何度もある。今春誰かに手折られた薔薇の若枝は、綺麗に断端を切り揃えてやったところ、その後ジャックと豆の木のように一晩で5㎝位伸び続け、あっという間にまっすぐ天を突き刺すように一番高い枝に成長した。他の枝はそんなに伸びている風ではなかったのに、手折られたことに「こんちくしょう!」と言っているようだった。8月上旬、その突き出た枝先が台風の風で折られないように、慎重に半円状に曲げてアーチ状の枝葉の群れの中に誘引させたが、その後よく見るとその枝先はまた群れの中で下半分の円状に曲がって天を目指してまっすぐ上に成長を再開していた。なんという生命力!声こそ出さないが、強い意志力を感じる樹の成長に感動した。裏庭のプランターで種を植えた朝顔も、今年は初夏にいっぱい葉が出て伸び始め、その先っぽを支柱に絡ませようとするのだが、なかなか私が誘導するように支柱に絡まってくれない。そっぽを向いて伸びようとする茎が多く、朝晩必死になって支柱に巻き付けてみるのだが、晩や翌朝になるとまた支柱を外れて外側の空に漂っているではないか。来る日も来る日もその繰り返しで、「何で言うこと聞いてくれないのよ!」と嘆いてしまった。とある日からちゃんと支柱に絡まり始めたではないか!ちゃんと私の声を聴いてくれたかのかな?すると数日で一気に支柱に絡まりながら螺旋状にてっぺんまで伸び切ってしまい、天空に行き場を失った茎は再び下に成長方向を変えていた。これも植物に意志とその心の疎通性~ある意味“精神”~を感じた場面である。COVID-19により海外へ行かなくなって5年になるが、今これらの植物の世話をほおって長い期間家を空ける海外旅行に行くことを躊躇している私がいる。以前は両親や娘に頼んで気にせず出掛けていたが、母が亡くなり父も足元がおぼつかなくなり、娘は結婚して家を出たため、家の庭の木々・花や室内の観葉植物の水遣りを長期間任せられる人がいない。海に潜るダイビングを通して地球を考えることと、植物を育てることの両立は如何にしたら成り立つのだろうか、と考えあぐね私は行動が止まっている。
上高地1 しかし国内に2泊くらいなら、と8月恩師の3回忌墓参を兼ねて京大の先生方と高山・上高地へドイツ語論文抄読会合宿に行った。暑い暑い外人観光客(スぺイン人やインド人が多かった)でいっぱいの高山(岐阜県北部の飛騨地方:昔はそんなに暑い所ではなかった)のホテルで缶詰め合宿を終えて、二日目は午後から上高地へ移動した。上高地は下界と全く違って涼しく、バスを降りてすぐ私は「なんと空気の美味しいこと!」と叫んでしまった。こんなに空気が美味しいと感じたことは生まれた初めてで、もぐもぐ空気を食べる口をした。岐阜県出身の身で恥ずかしながら上高地に始めて行った海派の私は、山も良いものだと、その景色に心洗われ、再び青空の下で勉強が進んだ。植物がいっぱいで、山や川も生きている!という想いを抱いた幸福な旅行になった。しかしそんな緑いっぱいの日本もいつかアメリカやハワイのように山火事で焼き尽くされてしまうのだろうか…この飛騨も上高地も、と懸念される。上高地2
 地球は生きている/物質も生きている(?)水も土石流も空気も、というと、物質の元である元素・原子から始まって一体どこから生命・心が芽生えて“生きている”といえるのだろう?人間や動物の体及び植物も炭素C、酸素O、水素H、窒素N等の原子を配列させたアミノ酸・たんぱく質や水からできているのだが、もしかして…存在しているのであろうか。では生命が息絶える“死”はどこで“生”と分けられるのだろうか。植物・動物・人間の死は、その組成である元素・原子の存在は同じだが、動きや流れが止まるのだ。生と死の境は“動き”なのだろうか?であれば鉱物などにも生と死があるのか?私は「地球は生きている」と考えているのだが、地球の奥深くにあるマントルやマグマが常に動き続けていることから、その考えは妥当しているのか?などいろいろ考察してみた。答えは出ないが、例えばスポーツ、野球やテニスなど相手のあるスポーツにおいてボールに心が乗って相手と魂のやりとりをしている感覚を持つことがある。ゴルフでもボールに心が乗って思った通りにピン近くに打てることがある。精神論ではないが、無機物であるボールに人間の心を宿せるものなのか、果たしてボールは無機物なの、それともあいだの空気が動いているから、目には見えないが空気を介して心を乗せることができるのだろうか。
 10年の間に「地球は生きている」という言葉が荒唐無稽に思われなくなった変化が次々に起こっているのだから、きっと今後10年の間にも今は想像できないような変化・進化・発見が起こるのだろう。その時「地球は生きている?」という問いの答えは出ているのかも知れない。それまで私には何ができるだろうか。とにかく人間は地球の主人公ではない、近代の人間が自分達に便利なように文明と呼ぶものを発展させ続けてきた結果、地球を傷つけ怒らせ逆襲されているいわば自業自得状態が現在の世界なのだ。これ以上地球環境を破壊し怒らせないために、我々はまず何をしなければいけないのか、もう手遅れなのか、そんな事を考えながら、未来の子孫達のためにできるだけクーラーの電源を切ろうとしている私である。

2023.8.22.

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