令和元年

 今年5月1日から令和時代が始まり、早元年も終わろうとしています。8ヶ月間の令和元年でしたが、振り返ってみると、事件・災害・スポーツなど様々なことがぎっしり詰まっていたように思われます。
 交通に関しては、あおり運転が問題となった事件や高齢者の運転ミスによる事故が多発しました。
 記憶に残る凶悪事件としては、①5月28日朝我が家からもほど近い川崎市登戸で起こったカリタス小学校児童保護者殺傷事件や、②7月8日京都アニメーション放火殺人事件、③6月1日元農水事務次官による44歳引きこもり長男刺殺事件がありました。①の犯人は、不遇な生い立ちの51歳男性で直後に自殺した通り魔的犯行、②の犯人は、41歳男性で自分が投稿した作品を盗作されたとの恨みからの計画的犯行、③の殺された長男は44歳引きこもりで家庭内暴力が絶えなかった、と報道されています。共に何らかの精神的な問題を抱えていそうですが、まだ裁判で事件や犯人の詳細は明らかにされていないため、言及は控えます。
 平成10年頃少年事件が頻発した際、テレビのニュース番組で、各界の識者と称する大人達が自分の専門分野にかこつけて、見てもいない犯人像について口々に分析し勝手な意見を言い合っている姿に、私の若い患者さんが刺激され「こんな手口くらい自分も考えていた。先に自分が同じことをやっていたら、今頃自分がヒーローになっていたのに!」と言ったことに危機感を感じ、即日テレビ局に「このような企画は少年心理を更に煽って危険だからするべきではない。」と書いてFAXしたところ、今は亡き筑紫哲也キャスターがすぐに同日夜の放送で私のFAXを読み上げ、「…という意見がありましたので、今日の座談会は急遽中止します。」と反応してくれました。驚きと同時にほっと胸をなで降ろし、筑紫さんに感謝しました。今年も各事件の直後に精神科医がテレビ出演して犯人像を分析するという番組があったので、一瞬危惧しましたが、評判が今一良くなかったのか、1回で終わったので意見するに及びませんでした。
 自然災害による被害もさらに頻発し激しさが増しました。8月26~28日の九州豪雨、9月5~9日の台風15号による千葉県の甚大な被害、その爪痕が残る中再び上陸した10月11~12日の台風19号による更なる被害、近くでは多摩川が氾濫し死者も出ました。これらはもう既に10年以上前から訴えていますが、“人類”の発展を追求しすぎた功罪としての“地球温暖化”すなわち“(生きている)地球からの逆襲”であろうと私は考えています。最近スウェーデンの16歳の少女グレタ・トゥンベリさんが訴えている通りで、彼女に賛同し応援したい気持でいっぱいですが、しかしどうやってそれを是正すれば良いか、ここまで進んだ人類の発展を逆戻りさせられるのか、考えあぐねています。
 そして最大の歓喜は、9月から始まり一か月以上に渡って日本中を熱狂させたラグビーW杯でしょう。初の日本開催で快進撃を続けた日本チームのベスト8入り!“ONE TEAM” が流行語大賞に選ばれたことは当然の感があります。
 医学生時代、軟式庭球部に所属してテニスに打ち込む傍ら、オフ時にはサッカー部のマネージャーをしていましたが、実はラグビー部にも少し関わりを持っていました。部活対抗運動会の騎馬戦で、ラグビー部の騎手(女性限定)がいなくて頼まれ務めたことがきっかけでしたが、週の初めの月曜日、ラグビー部の男性クラスメート数人は、前日日曜日に試合があると満身創痍、手足のみならず頭や顔に包帯を巻き、時に鼻の骨が折れたとか、肋骨が折れたとか、眼の周りが赤黒く腫れて誰だか判らない顔をして授業に出てくることが多々ありました。ラグビーって危険で怖いスポーツなんだ!なんでそんな危ないスポーツを好んでするんだろう?医者になろうとしている若者達が? と不思議に思っていました。しかしラグビー部員は本当に気のいい奴らでした。五郎丸歩選手が早稲田大学時代活躍していたことには多少関心がありましたが、しかし年月が立ち、すっかりラグビーのルールを忘れてしまっていたことに今回気付いた私は、もう一度思い出そうと見始めたW杯でした。娘が日本スポーツ界の仕事をして、その婿さんが現役ラガーマンであるため、ラグビーW杯については早くから知っていましたが、二人のように発売当初から準決勝2戦決勝のチケットを購入するまではなく、ここまで盛り上がるとは思っていませんでした。4年前のW杯で南アフリカに勝ったのは番狂わせの奇跡だと思っていましたから。まさか予選で強豪アイルランドに勝つとは!もしかして本物かな?と、そこからラグビーW杯に釘付けとなりました。そしてスコットランドに勝って8強入り!オフロードパスを流れるように繋いだ稲垣選手のトライや、福岡選手の身体能力を生かした独走トライ、そしてそこにまで行く過程でのフォワードのスクラムやセンターのタックルは、本当に素晴らしくティア1入りだ!と思ったほどです。残念ながら研究されつくした南アフリカに4年前のリベンジをされ、準決勝には進めませんでしたが、その国歌斉唱の時流選手が涙を流した気持ちが私には痛いほどよくわかります。2002日韓サッカーW杯決勝の試合前セレモニーで、自然に涙が流れてきた時の私の気持ちと一緒だったと思います。
 今回なぜ日本中がラグビーに熱中し、“にわか”ファンと言って恥じない人が急増するほど惹きつけられたのでしょうか?しかし見ている内にその答えがわかってきました。
 はじめは「これは“相撲鬼ごっこ”だ」と言って見ていたのですが、どんなに屈強な敵の男達が大勢立ちはだかっても、どんなに潰されても、愚直に前へ前へと突進しようとし続ける姿に、私は経験したことはないけれど男性達が駆り出さて母国のために人間同士戦い合った“戦争”を思い起こして重ねるように見ていました。私が生まれるほんの14年前まで日本も巻き込まれ焼け野原になった第2次世界大戦、日本軍の兵隊さん達は、このように命を顧みず愚直に突進して前戦突破し敵を倒そうとしていたのか、その中で命を落として散っていった数多くの兵隊さん達、母国のために、女子供を守るために。そう想像してしまい、胸の奥深くから涙が込み上げてきました。鉄砲や刀をラグビーボールに変えて戦車のごとくぶつかりながら敵陣深く突っ込み、サイドから抜けてトライを奪うバックスの選手達はゼロ戦特攻隊のように見えてきました。「男の人って凄い!本当に凄い!女はとてもかなわない!」と素直に男性に尊敬の念を抱き称え、戦争で散っていった兵隊さん達に頭を下げる想いでいっぱいになりました。女子ラグビー(日本でそれを創設した人は、実は私の大学時代の軟式テニス仲間だった女性なのですが)もありますが、相撲と同様ラグビーはやはり男性のスポーツだと私は思います。戦争の無かった昭和の後半43年間と平成時代を通り過ぎて、令和時代に入った今、戦争なんて日本人には考えられないでしょうが、世界各地ではまだ戦争が絶えないのです。
※そんな折12月4日アフガニスタンで長年支援活動に携わってきた日本人医師中村哲さんが銃撃され亡くなりました。
 「ONE TEAM」をスローガンにW杯を戦った日本チーム35人には、日本以外の5ヶ国16人の外国出身者が入っています。以前にも書いたようにスポーツにおけるグローバリゼーションが着々と進んでいるのです。これからは地球人ですね!日本国出身とか、ニュージーランド出身とか、まだ分からない宇宙に対する呼称として。
 そしてラグビーはチームメ―トをお互い信頼し尊敬し合っているといいます。個人の能力や体格に適したポジションで各々違う役割を持って、互いを信頼して活かし合う連係プレイが信条のラグビー、その精神が素晴らしい!そういえば大学時代のラグビー部の面々は、武骨で100㎏以上の巨体だったり外見に全く無頓着だったりしましたが、皆先輩後輩の区別なくいつも笑って冗談を飛ばし、喧嘩とか悪口とか聞いた覚えがないなあ、と思い出しました。サッカーのようにチャラチャラしたところがなく。人格も素晴らしかったことに学生時代は気付かず、若気の至りでした。このラグビーW杯を通じて、つくづく「男性は顔じゃない!ハートだ!」と痛感した次第です。
 そういったラグビーの悲痛なまでの愚直な戦う姿勢、男っぽさ、信頼と尊敬に根差した人種や民族を超えたチームワーク、などに皆心の奥底から感動し虜になっていったんだと思います。
 そして年の瀬も迫った12月17日競泳の池江璃花子選手が退院したという嬉しいニュースが飛び込んできました。前々章で池江選手のプラス思考について書きましたが、辛くめげそうになる時にも「大丈夫、大丈夫、いつか終わる」と自分を励まし続けた、とメッセージに書いてあったように、本当に気持ちの持ち方で人間は大きく左右されると実証されたと思います。
 スポーツから学ぶことは数限りなくあります。来年の東京オリンピック大いに期待しましょう!

Image-1 しかし私にとっては、今年11月23日一人娘が結婚したことが一番の事件でした。今まで患者さんには、「空の巣症候群ですね」と安易に診断を告げていましたが、「これだったのか!」と、母であり、父であり、姉であり、時には娘のようになっていた私と娘との26年間に渡る生活が突然ストップして心にぽっかり穴が開き、頼っていた支えがなくなって羽をむしり取られた鳥の気分で年末を迎えようとしています。喜ばしいことなのに…、“花嫁の父”の気持ちがよくわかりました。

PS. )今年10月、ここに書き続けてきたこのエッセイを、14年前に発刊した前作と合わせて17年分の『新版 徒然花』(イースト・プレス社)として出版しました。
不定期になると思いますが、引き続きここにエッセイを連載していくつもりです。出版した分は順次抹消されていく可能性がありますが、ご了承ください。
(2019.12.22)

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