イチローの引退~平成から令和へ

 4月1日、5月からの新元号が「令和(れいわ)」と発表されました。それは私が中高生時代大好きだった「万葉集」巻五の序文にある歌から引用されたもので、「苦難を乗り越えてきた人々が今後も心を寄せ合って本当に美しい平和な日本を花咲かせよう」という理念を表わしているそうです。実は私は「永和(えいわ)」と予測していたので近しく、音の響きが綺麗で、初めての「令」という字に、私の名前の一部であり我がクリニックの「和」という字が入っていて、とても嬉しく清らかな気持ちになりました。

 前編で「平成最後のニュース」と銘打っておきながら、3月21日夜晩餐を終え、米メジャーリーグの開幕戦でイチローの日本凱旋試合を見ていたら、まもなく「イチローの引退試合か?」という突然のビッグニュースが流れました。「えっ!今日?」と、サッカーのカズ(三浦知良)と共にずっと引退しないような印象のあったイチローに遂にその日が訪れたのか?と驚きかつやや感傷的になりつつ、「まだ平成のビッグニュースがまだあったのか…」と焦りました。そして私はイチローの現役最後の打席とその後の深夜の会見を最後まで正座して見届けました。2年前に亡くなった叔父は、プロ野球のスカウトを断った後にトヨタに入社して実業団野球を続け、最後は地域の少年野球の監督をしていましたが、イチローの実家がある愛知県豊山町と叔父の住んでいた小牧市岩倉町は国道41号線を挟んで隣どうしで、その叔父の息子も野球に打ち込み愛工大名電高校を目指していました。叔父は親交のあった元中日ドラゴンズの高木守道監督と「近くに良い選手がいる。」と話した、と言っていましたが、それが「鈴木一朗選手」だったと私が知ったのは、「イチロー」となってからでした。今でこそシアトルのイチロー、神戸のイチローの印象が強いようですが、若い頃の風貌が少し叔父と似ていることもあり、私にとってはずっと身近な名古屋のイチローなのです。

 イチローの引退会見は、精神医学的にもとても興味深く示唆に富んだ内容で、深夜の約1時間半私は釘付けでした。その中でイチローが言っていた「自分の限界を見ながらちょっと超えていくということを繰り返す、そうするといつの日からかこんな自分になっているんだ、という状態になって…だから少しずつの積み重ねでしか自分を超えて行けないと思うんです。」という言葉は、私が常々心掛けている「自分の能力の限界との厳しい戦い・鬩(せめ)ぎ合いを続け乗り越えることで少しずつ自分の限界を押し上げる、それを繰り返しながら人間は少しずつ成長していくしかない。」ということと同じ意味で、私は人生ずっとその自分の限界との戦いでここまで生きてきたつもりだったので、驚きました。それは運動でも勉強でも仕事でも人格磨きにおいても全部同じことがいえると考えています。イチローの毎日同じルーティーンを続ける強迫性も、私は同じ様で、「孤高の天才」といわれるイチロー程ではもちろんないですが、医学生時代に「孤高の人」と呼ばれていたとつい最近聞いて驚いた私は、少し似たところがあるのかな?と思ってしまいました。イチローは野球選手という職人であり、引退してもまだ野球職に携わるため、まだ道半ばにあるとして国民栄誉賞や愛知県民栄誉賞を辞退する、という考えは至極当然だと思えます。イチローのように大業を成した人間は、今でこそ賞賛され崇(あが)められるものの、“変わっている”と言われる人間は、どこか人とは違う生きにくさを感じているでしょう。

 まもなく平成時代が終わるにあたって、「平成」とはどんな時代だったのか、ということがよく議論されています。まず戦争がない平和な時代だったことはとても喜ばしい事ですが、戦争と高度経済成長という激動の昭和時代と違って、平和が続き皆に平等意識が強くなり、その反面、普通でいなければならない、皆と一緒でなければ弾き出される恐怖、変わっていると偏見の目で見られる不安などが出てきました。その内せめて服装や髪形などで自主性をアピールしたいと思う若者が増え、特に男性のファッションが変化に富み奇抜になったと言われています。

 日本は江戸時代末期まで鎖国していたため、各藩の大名が“国”と“国”で戦い合い、明治時代はそれまで“国”であった各藩を一つにまとめて“日本国”となり、世界の諸外国に対抗する力をつけようと躍起になりました。大正から昭和にかけての時代は世界の諸外国・異人種と戦い、昭和時代はその戦争に敗れたどん底から経済力で世界の列強と戦って経済大国となりました。平成時代はバブル崩壊によりその経済力は一歩後退し、代わりに幾度か地震・津波・台風などの自然災害に見舞われ、人間が利用してきた地球の一成分である原子力に脅かされる事態となりました。“異常気象”という表現は人間側から見た言い方であって、地球の上から俯瞰(ふかん)してみると、地球が人類に逆襲しようとしているような印象を私は持ちます。さて、では令和時代はどうなるでしょうか? 私は、コンピューターや人工知能AIといった我々人間が作り出したものとの戦いになるのではないか、と危惧しています。

 歴史は時の流れと共に(目に見えない空気感が)少しずつ予測不能に変化していくものです。人と人の間には、見えないながら実は色々な物質があって、それらの移動と共に、感情や精神spiritが動かされていきます。精神医療では、その見えない空気感mentalを扱うことが主な作業ですが、人と人工物AIとの間にはそれがなく響き合わないため脅威を感じるのです。イチローの会見場の空気には、イチローのオーラとかイチローの発する言葉や間の取り方から、それらが大いに動いていたため多くの人が惹きつけられたと感じました。私は、イチローを「平成を代表する人物」の第一位に挙げたいと思います。

 期せずして私も、この3月末で水泳に打ち込むことを少し減らし、もっと違うスポーツや趣味をすることにしました。もっと体の色々な部分をまんべんなく動かして色々なスポーツをゆっくり楽しみたい、もっといろいろな芸術に触れて人生を豊かにしたい、もっと多くの角度から世の中・地球全体を見てみたい、と。

 果たして「令和」時代はどのような時代になるのでしょうか?
2019.4.9

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