2019年2月、タヒチでイルカとダイビングして帰った直後その余韻に浸る間もなく、突然携帯画面に飛び込んできた「競泳のエース池江璃花子さんが白血病と診断された」というニュースに、私は一瞬現実感を失いました。それは以前に書いた叔父や親友が癌になったと知らされた時と同じショックで、痛みのない軽いカウンターパンチを受けて気絶したまま夢の世界にワープしたような。ほぼ毎日水泳をしている私にとって、池江選手は正(まさ)しく来年の東京オリンピック期待の星だったし、テレビで放映される主要大会の彼女の泳ぎを録画してスローやコマ送りで見ながら自分のフォーム改善の参考にさせてもらっていたため、他人事には感じられなかったのです。しかも水泳をしている人には急性心不全死は多いものの、癌(白血病は血液の癌と言われる)は少ないと感じていたので、俄(にわ)かには受け入れられなかったのです。もちろん職業柄「白血病」と聞いて、大体の状況や今後の過程が推測でき、「平成最後の…」と枕詞のように最近様々な事象が叫ばれている中で、私にとっては平成最後の大ニュースだと思いました。その後彼女がツイッターで発信する言葉にマスコミは大いに反応、初めは「まだ今は自分自身混乱している。」と信じがたい診断名に自分の身に起こった事を実感できないものの冷静な様子が伺われ、次に発した「神様は乗り越えられない試練は与えない。自分に乗り越えられない壁はないと思っています。」という常日頃から私も使ってきた聖書の言葉を18歳で知っていて、病気及び治療に対してすぐさま前向きに闘っていこうとする姿に、皆驚嘆しました。また親友の今井月(ルナ)選手に連絡した際に言った「…そういうことになったので月(ルナ)は頑張って!」という大病を宣告された人とは思えない逆エール、言われた方が戸惑ったのではないでしょうか。
この池江璃花子さんの報道に際して、私は以前に書いた親友と叔父の癌宣告された時の受け止め方の違いを思い起こしました。そして私は『生まれつきプラス思考とマイナス思考の両極端の人間がいる!』と発想しました。直接会ったことはありませんが池江選手や亡くなった親友は超プラス思考、最後まで生きることに執着し死が訪れる時を嘆き続けていた叔父や、様々な事情で私のクリニックに来院される多くの患者さんは超マイナス思考だ、と。あの親友のあっけらかんとした「(癌が)自分の事と思えないんだよね。~ずっと前向きだよ。」という言葉、最後までマイナスな発言・嘆きを聞かずに消えてしまった人、そういえば25年間落ち込んだ姿を見たことが無かったなあ。いつも面白い事を探して生きていたような人で、私の知る限りマイナス思考はありませんでした。私の絵の先生である俳優の石坂浩二さんも、いつも前を向いて諸事に興味を持っている人ですが、ある時奥様に「先生って落ち込む時あるんですか?」と聞くと、即座に「ない!」という返事が返って来ました。そんな人がいたのか!?と驚きました。しかしある時ブリキの館長北原照久さんにお会いして「すごいプラス思考な方ですねぇ。」と挨拶したところ、「いやぁ、石坂さん程じゃないですよ!癌の手術後お見舞いに行った時、真っ先に『よし!これでもっと長生きできる!』と仰ったんだから。」と聞かされました。
私は元来根暗で、学生時代は友人から「悩むことが趣味?」とまで言われるような超マイナス思考でした。今でこそ患者さん達から学び教わったせいか前向きに見られるようになったようですが。クリニックに来院する心傷ついた人達の中には、生来もしくは何らかの後天的な出来事から自己評価が低い(自尊感情が低い)人や、自己承認欲求が強くそれが満たされないとひどく嘆く人が多く見受けられますが、そんなマイナス思考の患者さん達と向き合って35年、時折一般の人達の中(例えば同窓会や音楽・水泳仲間など)に埋もれると、『あれっ、世の中の人々はこんなに健康的なんだ。いや、いつも会っている人達が不健康なのか…』と思わされることがあります。患者さん達の中には、①「落ち込んでいる」と言って過去のマイナス事象ばかり考えて続けて前を向けない人や、②「不安だから未来の事を先に悪く考えておいて実際駄目だった時のショックを小さくするんだ」と言って先回りのマイナス思考で固めている人がいます。①は時間が止まって、現在から未来が進まない、②はやる前から頑張らずに最初から敗けで入る省エネ的生き方、サッカーでいうとオフサイドのようなものか、共にこれでは現在を精一杯生きていないためhappyになれないでしょう。
一方、池江璃花子さんを含む上記のプラス思考の人達は、とにかく今現在を一生懸命生きている、マイナスは考えない、良いイメージで自分を鼓舞する、そうすることで明るい未来を呼び寄せる道が開けるのです。過去はもう終わった、未来はまだ分からないが、時の進行に沿って前向きに生きていくのみ!という思考で、マイナス思考がないのです。その中間の人間もいるでしょうが、あの親友が癌と告知されても他人事のようにあっけらかーんと最後まで生きた姿が本当に不思議でしたが、池江選手の報道を聞いて、石坂さんも含めて、これらの人達は超プラス思考(マイナス思考の無い)人間なんだと!と気付きました。もちろんショックを受けたり泣いたりすることもあるでしょう。しかしそこからの考え方や立ち直り方が、自ら自然に前を向きプラスに発想するところが、「強い!」と言われる所以でしょう。しかも本人達はそれほど凄いとか強いとは思っていないのではないでしょうか。そうでない人達が、自分にはないその“今”から前を向いている思考に遭遇して驚くのです。マイナス思考の患者さん達はというと、癌告知などされたら、まともに立っていられず、精神的に先にショック死してしまいそうなくらい混乱するでしょう。中にはテレビで赤の他人の事件や病気を聞いただけで、自分の身に起こったことのように精神的に伝染して、自分を支えられなくなる人もいます。個々人の“自我の強さの違い”と表現する場合もあるかも知れませんが、時系列に沿って考え生きているか否(過去・未来へ乱れ飛ぶ)かという姿勢、すなわちプラス思考かマイナス思考かによって、人生はhappyかunhappyかに分かれるのではないでしょうか。マイナス思考の人達は、過去を向いたままだったり、不安のあまり先の事ばかり考えて今現在をちゃんと生きていません。先の事は誰にもわかりません。今、今、今の連続が時になり、さっき言った今はもう過去になります。今をちゃんと生きていない=今の時間を怠けている、のではこの先の人生がhappyになるはずがないのです。しかし先を不安がる人たちは、今がずっと続くという前提条件の元未来を想像しますが、未来は必ず予測不能に変化していため、今が続かないことだけは確かな事実なのに、間違った条件の元では結果は間違うのです。従って今未来を悪く想像することは意味がないのです。想像していた未来が通り過ぎた後、振り返ってその前に想像したことを検証してみると、90%以上想像と違う結果になっていることでしょう。だから今を想像するならプラス思考でなければhappyにはならないのです。
あまりのショックで政界まで巻き込んだ池江璃花子さんの報道は、最近ようやく静かになりました。今頃必死に闘病していることでしょう。皆きっと彼女なら病にも打ち勝って戻ってきてくれる!と信じて待っています。私も録画してある彼女の最高の泳ぎを繰り返し見ながら、『今日・今を一生懸命生きよう!』と心掛けています。もう二度とマイナス思考の人間にはならにように、と。皆さんも、もし自分はマイナス思考人間だと思われたら、今を一生懸命生きて前を見るプラス思考人間に変わろうとしてみてください!
2019.2.28.