AI ⇔ 人間

 2026年も、桜~薔薇~紫陽花~が咲き終わり、梅雨も明けて猛暑と熱中症の話が連日報道される日々になり、早半分が過ぎてしまいました。
 昨今AIとかChatGPTなどの言葉が世の中を席巻し始め、患者さんの中にも昨年後半から、耳を疑うような話をする人が出現してきました。一日10時間以上スマートホンに向かってChatGPT相手に話をし続ける人~ChatGPTは絶対否定したり批判したりしないため、ずっと心地よく話を聞いてもらいながら会話し続けられる“友達”のようになり、家から出ず家事も育児もしない生活をしていた母親~に、私より良い相談相手だと言われたように感じショックを受けました。また、初診のお母さんに子供の養育・対応の仕方について相談され、1時間近くじっくり話を聞いた上で、今まで思春期精神医学を専門として臨床を積み重ねてきた経験から熟慮してアドバイスをしたところ、「わー、AIと同じ答えだったから安心しました!!」と喜んで帰られました。私は唖然、茫然、私がAIの答え合わせにされたのか…、と。精神科医やカウンセラーという生きた人間が担ってきた精神医療・心理学というものが、コンピューター=非人間に取って代わられるようになってきたのです。人間の一対一対応の医療・診察が、多対からになってきたとでも言いましょうか、我々の存在価値や居場所が脅かされつつあります。
 そんな折、昨年12月から急に初診患者数が激減していたことに最近気付き、どうしてなんだろう?一体何が起こっているんだろう?と不思議に思い、娘にAIで「青葉区・心療内科」で検索してもらったところ「和みのクリニックは全くヒットしないよ」と教えてくれました。確かに、私はHP以外他のサイトに宣伝やクリニック名を全く出さなくしたため、ヒットしようがないのでした。クリニックを探す際皆さん同様にAI で検索すれば、同じ答えが出てきて同一のクリニックへ向かっているのでしょうか?

 コロナ後、遠隔診療といってパソコンのビデオ画面で診療したり、メールやSNSを使って診察代わりにしたり、といったデジタルヘルスの活用が注目されるようになってきました。そしてそれらの遠隔診療に対する診療報酬を上げろ!という声が出てきており、受診することに困っている人には便利な反面、直接医療者-患者間で空気を介さない診察がまかり通ってくることに懸念を抱きます。果たしてなまの感覚、医者として最初に教育された「視診・触診・打診」といったことをしない診察が、本当に「人間が人間を診る」医学といえるのでしょうか?最近内科医も精神科医も、診察机の上のパソコンの方ばかり見て、患者さんの方をほとんど見ない(診ない)、内科医は触(触診や打診)りもしない、聴診器を当てることも滅多にせず、パソコンに打ち込んだら、あとは薬を処方するのみという人が増えてきたと患者さんが言います。さらに遠隔診療になったら、患者さんの顔色や雰囲気はとても感じ取れなくなるでしょう。医者と患者さんの間の空気が大切なのに! AI相手にそれ(空気)が、心が伝わるでしょうか?海外ではAIに「死にたい」と相談して自殺に至ったケースが多数出てきて問題になっています。AI・ChatGPTは、利用者数拡大のために共感を示す姿勢を強調するよう開発された結果、使用者の精神的依存を深め、その自殺願望を助長することになった、と遺族は主張し裁判にまで発展しています。世界中でChatGPTの週間利用者は約8億人、そのうち100万人以上が自殺に関するやり取りをしていると推計されているそうです。悩み孤立しがちな青少年には最も身近な相談相手になっており、我々精神科医やカウンセラーはもう用なしの時代になってきたのでしょうか。だから患者さんが急に減ってきたのかと思いました。
 なぜ多くの人はAIとかSNSの文字をすぐに信じ鵜呑みにするのでしょうか?
 そんな中、先頃、巨人軍の阿部慎之介監督騒動が起きました。娘達の喧嘩の仲裁に入った父親の阿部さんが暴力的に長女に接したところ、長女はAIに相談、「児童相談所に連絡するように」という答えに従って児相に電話したところ、長女が児相の対応年齢以上の18歳だったこともあり児相は警察に通報、長女が「胸ぐらをつかまれた」と言ったのを「首を絞められた」と伝えたため、すぐさま警察が阿部さん宅へ直行し、行為を認めた阿部さんを暴行容疑で逮捕したという顛末。長女は警察が家に来て驚き、自分の愚行に気が付き猛反省したものの、父親の阿部さんは巨人軍監督を辞任し、SNSで長女は“AI相談”したことをバッシングされました。「AIに依存し過ぎて鵜呑みしてはいけない!」という世間への教訓、そしてちょうどこれを書いていた私にとっても、私見を後押ししてくれる事件となりました。また児童相談所の早合点もいかがなものかと思われます。児相が対処する年齢ではないとしても、即警察に通報するのではなく、もう少し詳細を聞いて確認してから行動しても良かったのではないか?と。身近な者同士や家庭内の問題は訴えた者勝ち的な風潮がありますが、ハラスメントやDVには、一般的に“弱者”と見られる方が先に訴えると、訴えられた“強者”がすぐさま“弱者”に転じる構造が潜んでいると考えています。
 また最近、子供の夏用着物をレンタルしようとPCでサイト検索したところ、AIの答えに「M着物屋さんに豊富にある」と出てきたため、その公式サイトを検索したところ、夏用のレンタル着物が全く出てこず、不思議に思って直接M着物屋さんに電話してみました。すると、「うちでは夏物はレンタルしていません。もしかしてそれAIの答えですか?」という返事が返ってきました。「はい」と答えると、「AIも嘘つくんですよね~。最近そういう問い合わせが多々あるんです」とのことでした。

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 また最近の子育ては昔と違う!とよく言われます。私は以前自書『徒然花』の第14章に「母から聞いた祖母の言葉で私が娘を産んだ時母から伝えられた『女は、女の子を産んだら、その子が子供を産むまで生きなければならない』と書きました。女の使命は子供を産み育てることであり、その子育ての極意は、祖母→母→娘→孫娘…と縦に伝えていかなればならない、ということを教わり、過去の女性たちはそうやって綿々と子育てを伝え今に至っているんだなあ、と心が震えたものですが、最近の女性たちは、妊娠した時からSNSやYouTube( 特に某人気芸能人Tさんが自身の豊富な妊娠・出産・子育て体験を発信している)から、妊娠子育てのあれこれを横系列で見聞きして準備しているのです。ちょうど33年前私が出産した直後「たまごクラブ・ひよこクラブ」という妊娠出産育児雑誌が登場したのですが、まだ皆あまり参考にせず、母親や助産婦さんから聞いて育児にいそしんでいた覚えがあります。しかし現代は実の母のアドバイスには耳を傾けず、それどころか「もう30年前の話でアップデートしてないでしょ!最近は違うのよ、TさんのYouTube 見てよ!」と指示したり、助産婦の母親を持つ娘ですら「産婦人科医が書いているこの本を読みなさい!」と母親に言ったりする始末。姑さんに産む前から「一切子育てに口を挟まないでください」と言って、孫を抱かせもしない嫁の話も聞きました。
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 そういう子育てに関する本や記事(活字)や動画を見るとそのまま鵜呑みにして、それが唯一正解でそうしないといけない!と考えてしまうのは、AIやChatGPTを鵜呑みにして従ってしまうことと根は一緒ではないか、と思います。子育てとは、育てながら学んでいくもので、過去そのようなツールがなかった時代でも女性達は脈々と世代を通じて語り伝えてきたものなのに、今はその縦系列の自分のご先祖様の言葉より、横系列の情報・活字が正しくそうしなければならない!と強迫的になっていることに愕然とし嘆かわしく思います。強迫的というのは、裏返せば、強い不安(妊娠や子育ての)の防衛なのですが…。

 6月20日、LAドジャースの大谷翔平選手と妻真美子さんに第2子が誕生したという嬉しい喜ばしい幸せなニュースが入りました。二人はInstagramで「無事に生まれてきてくれてありがとう!人生のこの素晴らしい日…」とあふれんばかりの喜びを伝え、世界中から祝福の声が上がりました。しかし昨年4月の第一子長女から1年2か月しか経っていないことから、出産間隔に関するWHOの推奨「最低18か月、理想は24か月」を持ち出して、「年子は妊娠DVだ。いくら大谷の子だとしても年子は欲しくないよ。大谷は妊娠DV だ。真美子さん子宮破裂しないで良かったね。年子だと産婦人科医や助産婦に怒られる」などとSNS上で批判する日本人女性が現れ論争となりました。昔は年子なんてざらにいたもので、昔は日本でも一人で5~10人子供を産むお母さん達がいて、年子で子宮が破裂したとか、虐待もどきに言われることはありませんでした。WHOの推奨は主に世界の後進国に対して発せられたもので、先進国では身体が健康で家庭の経済状態が許せば妊娠間隔はあまり問題にされることはありません。人間は肉体的にも経済的にも精神面でも個人差があり、WHOの推奨なんて絶対的な科学・医学ではないのです。個人主義と晩婚少子化の進んだ現代においては、自己実現を優先し若いうちに沢山子供を産みたいと思う人が少なくなったのかも知れませんが、いつ子供を産むかは各家庭・夫婦に決定権があるのであって、家庭の経済状態や妻の年齢・心身状態によって様々に違ってくるでしょう。子供がなかなか出来ないカップルや高齢出産の人は、年子でもいいから早く子供を産みたいと思っているはずで、外野の他人にとやかく言う権利はないでしょう。とにかく大谷夫妻は心身共に健康なスポーツマン(ウーマン)で莫大な経済力も持ち幸せを絵に描いたようなカップルであり、二人が望んで新しい命を誕生させたことに何の問題も危険もなく、その喜び・幸せの報告に、“WHO推奨”という総論を持ち出してケチをつけるような人は、自身が幸せな家庭生活・夫婦関係(パートナーとの性生活)を持てていないのではないでしょうか。順風満帆な人生を送っている他者へのひがみですね。
 「医学に絶対はない!」のです。AIで検索した医学の答えが一律なのはおかしい話で、人間は個々人で違う、血液検査の正常値も治療薬剤の適正量も民族で全く違うのです。ある一つの医学説が各学派で違うのはよくあることで、現在もう決定されたように書かれている医学論でも将来変わる可能性があるのです。脳に関しては、まだほとんど分かっていませんが、確定しているかのように書かれているのはおかしな事です。例えばうつ病については世界の診断基準(ICDやDSM)がありますが、全ての精神科医が信じて使っているわけではありません。議論する時に使う共通語として作られたものに過ぎず、何年か毎に変更されています。雑誌や新聞またはテレビである薬や病気について書かれたり話題になったりすると、その良くない情報を信じて動揺しクリニックへ駆け込んでくる患者さんが必ずいますが、AIと同様、その活字や情報をそのまま鵜吞みにせず、逆に{えっ、そうかなあ?}と否定疑問から読んで考えてみて下さい。それだけで視野が広がるはずです。AI やネットの情報などは便利な反面危険と背中合わなので、使い方を間違えないように、まずは自分の頭で考える癖をつけたいものです。

2026.7.16

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