長い記憶

 最近着物にはまっています。着るものというと、仕事着とスポーツウエア・水着以外ユニクロのホームウエアしか最近身に着けていない私は、いつの間にか洋服への興味がとんと失せていました。20代はファッション雑誌を見てはウインドーショッピングに明け暮れ、40代半ばまで素敵な洋服を身にまとうと、あたかもモデルさんのように自分が綺麗に見えるという幻想に駆られていたようですが、数年前から、どんなに素敵な洋服を見ても自分にあてがって想像することを全くしなくなっていました。摂食障害の患者さんのみならず思春期以降の女性はこぞって痩せて綺麗になって素敵な服を着たい!と言いますが、そうでしょうか?と私は首をひねります。お母さん世代もテレビショッピングなどで、ダイエットして痩せて○号の服が着られるようになった!と喜びの声をあげていますが、私には???です。10年前の私ならその言葉に全く疑問を抱いていなかったでしょうが、何が変わったのでしょうか?最近、仕事と水泳を含めた運動以外のことをあまりしていない私は、ちゃんとした服を着て靴を履いて外出する機会が激減しています。たまに研究会などに行く時は、クローゼットの中を漁って昔の服のどれを着たら良いか、靴ってものをちゃんと履かなきゃいけない!と慌てます。お陰様で体型は変わっていないので流行遅れの服でも着られるのですが、それを着た自分を見ても綺麗に見えず、ウキウキせず、もう新たに洋服を買う気にはなれません。歳のせいもありますが、お店で7号9号11号とサイズだけ違えてデザインが同じ立体裁断された洋服を見ても、そこに自分の体を入れるだけで美しく見えるとは思えないのです。そこで…、最近娘の成人式が迫り15年以上用無しにしていた和ダンスを探ることになって、思い出したのです。そうだ!結婚してすぐに私は「毎日着物を着て過ごしたい!」と宣言して、着付けを習おうとしたことがあったんだ、と。和ダンスを開けてみると、25年前に母が買い揃えてくれた加賀友禅の色留袖や佐賀錦の袋帯、大島紬や喪服など全く未使用の着物が山ほど眠っていました。着物は全て昔自宅で和裁をしていた祖母の手縫いなので、全部私サイズに仕上がっています。小学4年生の時「おばあちゃんが作ってくれた着物」という題で書いた作文がハードカバーに載ったのですが、その本も出てきました。そうだ、もう洋服は終わりにしてこれからは着物を着よう!と一念発起して、着付けを習いに行くことにしました。その初回、20歳過ぎまで祖母と母に正月や行事の際にマネキンのように棒立ちで着物を着せられていた私は、下着から長襦袢、着物までおぼろげながらですが、ほぼ着方を覚えていました。見様見真似で娘に浴衣も着付けていたのですが、ほぼ間違っていなかったことを知りました。細かい所や最近使う小物については教えてもらいましたが、帯だけはどう結んでいるのか背中で見えなかったので、一から習うことになりました。要は平面裁断の布を自分の体に上手に巻きつけて着れば良いのです。そうすると面白いように、眠っていた着物を片端から出して練習の度に着てみる私でした。しかも普段にも気軽に着られるように、ウエスト周りにタオルなどを入れて補正しないで、使う腰紐をできるだけ少なくする着付け方を教えてもらうことしました。そして3回目にはほぼ一人で着物を着られるようになりました。現代の日本女性は、立体裁断の○号の洋服!を目指して自分の体形を変えることに執心しているようですが、平面裁断の着物を自分の体形になじませて美しく着る風習に戻れば、摂食障害や人と体型を比べて落ち込んだり喜んだりする女性が減るのになあ…と思う私でした。
 もう一つ、先月末私の通っているスポーツジムのイベントで季節外れの餅つきがありました。入館して目にしたのは、杵を振り上げてふらふらしている若い女性スタッフの姿でした。「次、打ってみてください!」とすぐに振られて、物心頃ついた頃から高校生ぐらいまで実家では毎年年末1日中餅つきをしていたため、「今まだつけるかなあ?若い子に教えてあげようかな?」と思いながら私は杵を受け取りました。昔は、前日の夕方から祖母と母が餅米の用意をして、当日の早朝から釜戸でその餅米をせいろで蒸して、親戚が集まって来ると男性が木の臼と杵で餅をつき、女性が手返しして伸餅に伸ばしたりあんころ餅を作ったりしました。私は小学生の頃から、男女両方の仕事をして育ちました。12月の寒い朝から、湯気が立ち上る中、みんなで掛け声をかけながら次々に餅をつき、最後につきたての餅を頬張る熱気に溢れた年末恒例のイベントでした。「重たいですよ。」と言われて杵を受け取った私は、「どこが重たいの?」と思うと、瞬く間に昔の餅つきを思い出したようで、右足と右肩を前に出して腰を入れ、振り上げた反動から臼の真ん中に一番ヘッドスピードが速くなるよう杵を振り下ろしていました。それからはどんどん快調に一人で餅を打ち続け、誰も手返ししてくれないので、一旦杵の先にお湯をつけて餅の形を直してまた10回以上打ち続けました。「何で誰も手を出さないの?」と怪訝に思っていると、周囲の人は私の道に入った餅のつき方に驚き唖然として見入っていたのです。だんだん昔を思い出していい気になって打ち続けていた私も、「この辺りにしておこう。」と杵を置いたのですが、35年以上前の所作を体が覚えていたことに自分自身驚かされました。
 昔取った杵柄とはこのことなんですね。小さい頃習ったことは頭ではなく、体が覚えている、と。むしろ頭ではどんどん忘れていくことが多いのに、体に染みついた遠く長い記憶は薄れない、と。それを体感した10月でした。
2013年11月

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