今回は、マスコミの影響もあってか数年前から内科の紹介や救急経由でも増えている「過呼吸・パニック」について少し専門的な話をしてみます。今月(平成25年5月)末第109回日本精神神経学会(福岡市)でも発表する予定ですが、当院で4年前から行っている運動療法(ヨガ・ピタティス)・自律訓練法の原理を、私の論文から抜粋します。
『パニック障害や不安神経症、過呼吸症候群などは、根源的には先走り不安の強い性格の者が無意識に自分に“負の自己暗示”をかけて引き起こす病態であると考える。それには、まず正しい呼吸法、すなわち、まず①呼気により残っている肺の空気を吐き切ってから、②鼻からゆっくり吸う腹式呼吸をすることが必須である。その呼吸により、空き容量が大きくなった肺に充分量の酸素を吸い込めるため「酸素が入っていかない」という息苦しさと不安はなくなる。また吸気は交感神経系が優位になり興奮傾向になるが、呼気は副交感神経系が優位になって気分を鎮静させる。過呼吸発作は口で頻回に息を吸う胸式呼吸による交感神経系の興奮が発症のメカニズムに関与していると考えられるが、鼻で速く頻回に息を吸うことは困難なため、鼻吸気の腹式呼吸によりそれも防止できると考える。その呼吸をベースにして、自己の心身のコア(中心軸)から、自分の体の各部分に丁寧に意識を向けながら、集中して自分で自分の体を動かそうとするヨガ・ピラティス運動は、それまで「過去」や「未来」へ心が乱れ飛び、体と心が分離しているように感じて自己コントロールできなかったものに、「現在」にある“身体”を通じて心を統合し、冷静に自己身体への意識を目覚めさせて自分をコントロールできるようにする。つまり、自分の内側から自分で自分の細胞を燃焼しようとするうちに、「自己身体所属感」を回復させるのである。そしてさらに自律訓練法により、自分にマイナスの暗示をかけていたこと、すなわち、不安の強い心が身体症状を引き起こしていたことを体感し、「だから、解除も自分でできるんだ!」と気付き、現実場面でも落ち着いてそれを再現・実践することによって発作が起こらなくなる。このようにパニック発作も過呼吸も、“先走りのマイナス不安”の産物であり、謂わば“無意識の自作自演”症状ともいえる。自分の心と体を一致させ、プラスの自己暗示により時系列に沿って前向きに生きていくことで、不安を払拭し、隠れていた自己治癒力を回復・発揮することができるようになり、その結果薬物療法から脱却できるのである。』
このように考えて、当院では過呼吸発作やパニック障害の患者さんには、ある程度落ち着いたら自律訓練法と運動療法(呼吸法を含む)をお勧めし、薬物療法もSSRIはあまり使わず最小限にしています。その結果、通院も短期間で治癒する方が多くなっています。心療内科というと、「わかっているけど、自分ではどうしようもできないから、何とかしてくれ!」と言って‘まな板の上の鯉’の如く受診される方がいらっしゃいますが、全部医者に丸投げでは良くならないのです。説明の上、ある程度は事態の原理を理解し、‘心持ち=なるほど!そうしてみよう!’と医者と同じ方向を向いて、本人がまず一歩を踏み出そうとしないと治癒に向かわないのです。昔、初診で「カウンセリングしてください。」と言ったまま、ずっと何も喋らず座り続けていた若い患者さんがいましたが、心療内科医やカウンセラーは心を読む魔術師か何かのように誤解されている節があります。しかし医者はちょっとした気づきと方向転換を促すだけで、むしろ患者さんがすることの方が多いのかも知れません。人間の神経には、自分で動かせない不随意神経と、自分で動かせる随意神経があります。体の症状として出たものを、自分ではどうしようもないもの(不随意神経による)と思い込んで来院する方が多いのですが、実は随意神経を自分で無意識のうちに動かして症状化している場合が多く、その代表格が過呼吸症候群やパニック障害です。即ち、全く急に訳も解らず勝手に起こる症状ではなく、思い当たる心の負担があるはずなのですが、体に症状化すると底に沈殿している原因に目が行かず、その上澄み症状に恐怖を抱いて混乱してしまう病態なのです。上記の原理を少しでも理解して、マイナスの自己暗示に気付き、無意識の悲劇的自作自演を阻止することができれば、病院に駆け込む患者さんも減るのではないかと思うのですが・・・。
PS.) 我が家の薔薇が今年も咲き始めました。自宅車庫の上のピンクの薔薇は、可愛らしい色鮮やかで薫り高く、クリニック入口のアーチの薔薇は両側から大粒の蕾が揃って咲き誇ろうとしています。昨年大きく広がりすぎた枝を切り落としたため今年は大振りの花が沢山一斉に開きそうです。気候のせいもあってGW終わり頃から10日間程が見頃でしょうか? お近くにいらした際は是非一度ご覧になって下さい。
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2013年5月